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False Island 49日目 天埜邪鬼(550)と華煉(1516)の邂逅
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宝玉を集めると願いが叶うという島を訪れて長い月日が経った。

だが、一向に宝玉は集まらない。

それどころか、迫り来る物の怪の力の前に苦戦することばかり。

普通であれば、自らの力を上回る物の怪たちを賞賛するべきなのだろう。

しかし、拙者の力のほとんどを失った後では、そう素直に思えるはずもない。

聞けば、同じように力を失った者がいるらしい。

だが、力を失わなかった者がいることも確かだ。

わかっているのは、この島に訪れる前に力を持っていた者は一律、力を失ったということだ。

全ての者が同じ土俵で宝玉を探すという意味では公平なのだろうが、人生は遊戯ではない。

かといって、元の力を取り戻す術を知らぬ以上、できるだけ早期に宝玉探索に耐えるための力を得なければならない。

必死で訓練を続ける日々。

その甲斐もあってか、元通りとは言えないが、それなりに力が戻って来つつあるのを感じている。

ただ、基礎的な力は以前と比べて及ぶべくもない。



「フゥ……」

思わず、ため息をつく。

この島について以来、何度目のため息だろう。

ため息をつく度に思い知らされるのが、拙者の能力がどれほど精神的な支柱になっていたのか……。

積み上げてきた能力を失ってしまえば、それはもう自分ではない。


  ならば、拙者は何者なのだろうか?

  抜け殻だろうか?

  出涸らしと言った方が近いのか?


少なくとも島に来るまでの拙者ではない。

取り戻しつつある能力も厚み以上に、質も違っていることを漠然とながら感じていた。

陰鬱となる気持ちを振り払う。

久しぶりの遺跡外だというのに身体を休めることもなく、拙者は今日もひとり、島はずれの荒野で戦闘訓練に励んでいた。

訓練しているときだけが唯一、拙者が拙者であると感じられるからだ。



「永久の祝福(エターナルブレッシング)!」

拙者の身体が優しい光に包まれていく……。

この不思議な技は、この島に訪れて訓練を続けるうちに脳裏に閃いた技である。

この島に訪れるまでの拙者では思いも付かなかった技である。

他にも多数、このような技があり、拙者自身変移していることを感じるのだが、この技はその中でも特別である。

見えない何かが拙者を励ましているような、そんな錯覚を覚える。

そして何より心地がいい。

しかし、残念だが、それだけである……。

強い力が手に入った。

そのことは直感でわかるのだが、拙者が求めるモノと全く方向性が異なるのであれば……。

「フゥ……」

今日、何度目かのため息をついた、その時である。

遙か遠くに見えていた少女が何やら念じると、異質な強い波動が辺りを飲み込んでいく……。

その刹那、拙者の身体を優しく包んでいた力が突如、業火へと変貌し拙者に牙をむいたのだ!

身につけた篠懸が激しく燃えさかる。

このままでは、焼け死んでしまう。

拙者は襟首にあった糸の結び目を引きちぎる。

すると燃えさかっていた篠懸は、まるで折り紙にはさみを入れたかのように離散し、焼け落ちた。

忍者の着物は1本の糸で縫われていて、その糸を抜くことで一瞬でばらせるのだ。

前にも、この作りのおかげで助かったことがある。

「まさか、再びこのような状況になるとは……」

焼け落ちた篠懸に残った火を足で消しながら、昔を思い出す。

あの頃は、自信にも溢れていた、と……。

一瞬の間の後、首を振り、我に返る。

今は黄昏れている場合ではない。

再び、少女を見やる。

どうやら、少女は拙者を狙ったのではないのだろう。

こちらに気づいてすら、いないようだった。

少女の持つ剣が突然、勢いよく炎を立てる。

どうやら、少女がしようとしていたのは、剣に炎をまとわせることだったようだ。

「何かと思えば、人騒がせな……」

少女も訓練か何かで、ここに訪れたのだろう。

拙者は邪魔にならないように立ち去ろうとした。

その時、少女の力が先ほどよりも増しているように感じた。

……いや、確かに力が増している。

忍びとしての力は全て失っても、相手の力を見極める力を失わなかったのは、不幸中の幸いであった。

「……あの技さえあれば、拙者はこの自らが制御できない力を使いこなすことができるかもしれぬ!」

拙者は思わずつぶやいていた。

別に剣に炎をまといたいわけではない。

拙者が欲したのは、全てを力に変えてしまう、あの不思議な波動……。

「……!?」

少女が辺りを見回し始めた。

拙者の姿は見えぬとも、気配は感じ取れたのであろう。



「ご心配なさるな。妖しい者ではありませぬ」

拙者は少女からも見えるであろう距離まで近寄ると、そう声をかけた。

少女は強ばった表情で剣を構え、こちらを見ている。明らかに怪しんでいる。

ああは言っても警戒されるのはいつものこと。

このような仮面を付けた男がいきなり現れれば妖しく見えるのは致し方ない。

そろそろ、本気で仮面を外すことも考えよう……そんなことを考えていた時、

「誰なの、あなた……?」

「拙者、天埜邪鬼と申します。貴殿が先ほど使った技に少々興味がありまして参上しました」

「さっきの技……?」

「その剣に炎を点した技のことです」

「クラウソラスね」

「ほぅ、クラウソラスという技でしたか。少々ぶしつけなお願いで申し訳ありませぬが、拙者にその技を教えていただけませぬでしょうか?」

拙者は頭をさげる。

拙者の意図がわかったからだろう、少女は構えていた剣をさげてはくれた。

だが、帰ってきた言葉は……

「お断りします。見ず知らずの人に、この技を教えるなんて・・・・私にはできません」

想像はしていたが、実際に耳にすると落胆する答えだ。

だが、96隊なる敵と遭遇し、物の怪のみならず、多くの者が行く手に立ちふさがる現実を知った今となっては、ここであの技を教えてもらわなければ拙者に未来はない。

千載一遇のこの機会、なんとしてでも逃してはならない。


  もう後悔はしたくないのだ……。


「そこを何とか! 教えていただけるのであれば、拙者、何でもする所存です!」

思わず、額を地面にこすりつけていた。

自らの過ごした600年を振り返っても、このようなこと、一度たりともしたことはない。

しかし、この時ばかりは、身体が自然と動いた。

何度も、何度も、まるで神仏を拝むかのように額を地面にこすりつけ頼み込む。

拙者にできることはここまで。

あとは少女の判断にゆだねるしかない……。
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