まさか・・・・・火の素養をもたない者がこんなにあっさりと剣に炎を集めることが出来るとは・・・
「これがクラウソラス……!?」
驚愕する男。
それ以上に驚愕する私。
私にすら気配を感じさせなかったこの男は一体いままでどんな生を歩んできたというのだろうか。
「クラウソラス…」
呟く男には申し訳ないが、まだ違う。
この男が集めたのは私が呼んだ炎。
クラウソラスの力はもっと強い。
しかし・・・
剣にまとわりつく炎と今の声がきっと呼んだのだろう。
クラウソラスの波動をほんのわずかだが感じる。
「もう一度クラウソラスの名を呼んでください。」
興奮した男はクラウソラス…クラウソラス…と何度も名を呼ぶ。
招く者がいて、媒体がいて、これでもなお誇り高い炎剣の力は完全に舞い降りようとしない。
私はもう一度自分の剣を抜く。
「クラウソラス」
舞い降りた力を男の剣に注ぎ込む。
『この男は炎を受け入れた。貴方を揮うだけの能力を身につけている。認めなさい。』
私の意を受けて火の勢いが少し増す。
炎剣が抵抗しているのがわかる。
クラウソラスの力が男の剣を伝って、男に襲い掛かろうとする。
何度も飛び散る火の粉。男の剣の上で舞い上がる炎。
だが、炎を御することを憶えた男は苦労しながらもその炎をそのまま剣へと押しとどめる。
男の剣に灯る炎が少しずつ暴れるのをやめ・・・
剣に淡い炎と力のみが残ったときクラウソラスが完成した。
「その力を憶えておいて。それがクラウソラス。誇り高い炎剣は今貴方を認めました。」
炎剣との契約の成立。
力を押さえ込んだ男の力量を認めたのだろう。
炎剣は男の『剣』に舞い降りることを承諾した。
あとは力を放つこと。
そして「杖」にも力を舞い降りさせること。
さて・・・この誇り高い炎剣にこの男の力を認めさせるにはどうしたものか・・・・。
私の選んだ答え。
クラウソラスに食わせれば良い。上質なとびっきりの餌を。
この男に力を貸すことがとても美味しいことなのだとわからせてやれば良い。
あとはこの男次第。
この男が常に上質な餌を用意出来るなら、クラウソラスは喜んで杖の上にも舞い降りるだろう。
「神満つる剣よ。私に祝福を」
崩界と呼ばれる剣が神の力を呼び込む。神の祝福の光が私を包む。
「ブレス」
さらに注がれる神の息吹
「サンクチュエリ」
私の周りに築かれる反射障壁と障壁内を満たす神々の祝福。
私のほうはこんなものでよいだろうか・・・
「クラウソラスに貴方を認めさせます。クラウソラスの好むものを用意して下さい。」
クラウソラスが何を好むのか・・・・それはあえて口にしない。
これが最後の試練。
この男が正しく力を認識していればクラウソラスはこの男を認めるだろう。
認めさえすれば杖に降りることもやぶさかではあるまい。
男に与えられたヒントは今の私の姿のみ。
これ以上教えてしまうと、炎剣はこの男の力を認めまい。
あとは・・・・男が何をするか・・・で決まる。
「私が教えられるのはここまでです。
私が完全に立ち去る前にクラウソラスの好むものを用意し、
・・・・・・クラウソラスの名を呼び、その力を解き放ちなさい。」
呆然とする男に背を向け、私はゆっくりと歩き始める。
数瞬の後、衝撃と共に私は微笑み・・・「見事」と小声で呟くことになる・・・・