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False Island 49日目 天埜邪鬼(550)と華煉(1516)の邂逅
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「いいでしょう。クラウソラスを貴方に教えます。」

少女の言葉に拙者は色めき立った。

だが、すぐに冷や水がかけられる。

「ただし条件が二つだけあります。」

条件……許可をいただいたとしても、もちろん要求されるであろう事は予想していた。

だが、二つとは考えていなかった。

片方だけでは意味がない。

叶えられる条件ならばよいのだが……

少女の条件の1つめは、少女の仲間が望む物を何か一つ譲ると言うことであった。

これには異論はない。

当然、対価は考えていた。

そして、少女の条件の2つめは……

「私の名を訊かないこと。これが条件です。」

少々、呆気ない要求だったので、胸をなで下ろすと言うよりも、肩すかしを食らったような感覚だった。

だが、こちらとしては、そのような些末なことなど気にならない。

まだ忍びを生業としていた時は、匿名の依頼が多かった。ふと、そんなことを思い出す。

だが、今回は立場は逆だ。こちらが頼み込んでいるのだから。



少女はまず、クラウソラスの意味を教えてくれた。

遠い異国の神が振るったという武器であり、炎剣の名前。

拙者の郷では刀に細工をすることは稀である。

細工をしたとしても柄、もしくは鞘への装飾がせいぜい関の山であるが、所変われば品も変わるのだろう。

「私の場合、クラウソラスの火の力を剣に一度宿らせます。それから剣を薙ぐことで力を顕現します。

ゆっくりと火の力を呼び出しますので見ていてください。」

少女は目を閉じ、呪文を唱え始めると突然、少女の剣に炎が灯った。

「見えますか? この焔が」

少女の問いかけに拙者はうなずく。

「武具に力を付加する能力者であれば、炎剣の力を宿らせる武器は何でもよいはずです。

ですが、貴方にはその素養が見られません。

いきなり杖や短刀に炎剣の力を保持するのは難しいでしょうから、最初は剣を使われるのがよいでしょう。

剣を抜いて下さい。私が呼んだクラウソラスの力を貴方の剣に移し変えます」

拙者の刀に炎を移す!?

正直、意味がわからない。

今、拙者が使っている刀は水晶で出来ている。

当然、燃えるはずはない。

にもかかわらず、刀身に炎を移すという。

半信半疑なれど、今は少女の言うことに、ただ黙って従うのみである。

拙者の抜いた刀に少女の剣先がそっと触れる。

少女は何やら唱えている。

だが、拙者の刀に変化はない。

「炎を拒否しないで。受け入れて」

受け入れろと言われても、困ってしまう……。

やはり、半信半疑なのが良くないのであろうか?



少女はため息をつき、拙者に剣を納めるように指示する。

拙者は言われたとおり、剣を納めたその瞬間、

「エターナルフレイム」

少女がそう言うと突如、宙に現れた炎が舞い踊る。

少女は炎をまるで生き物のように操り、唖然としていた拙者の両頬に両手を当てる。

すると、拙者の身体が激しい炎に包まれる。

拙者は飛び上がらんばかりに驚く。

技を教えていただこうとしただけで焼き殺されそうになっているのだ。

少女が最初から意図したモノなのか、乱心なのか!? それとも……

このままでは焼け死ぬ、そう咄嗟に判断した拙者は、再び衣服をバラして逃げようとした、その時である。

「この程度の炎に耐えられないのなら、修得することはあきらめなさい」

少女の真剣な表情から、この異常な行為を超えねば技の取得が不可能だと悟る。

とはいえ、心頭滅却すれば火もまた涼しとは言うが、本当に火の中にいては、たまったものではない。

拙者の肉が焼ける匂いがする。

そのツンとした嫌な匂いと肉の縮む感覚の中、不謹慎にも昔のことが思い出される。

ああ……昔にも一度こんな事があった……。

まだ挫折を知らず、己の欲望に向かって突っ走っていた頃のこと。

あの日、拙者の野望と拙者の自尊心は焼きつくされた。

それ以来、炎はあまり好きではない。

「集中して。炎を受け入れるの」

少女が拙者へ檄を飛ばす。

拙者は死ぬ気で集中した。

正確には無心となった。

拙者にはわからぬ感覚ゆえ、どうしても心に乱れが出る。

それならば、いっそのこと死ぬつもりで無心になった方がいいのかも知れない。

どうせ、死ねない身体なのだから……。

拙者はどっかりと、その場に座り込み、座禅を組む。

熱さと痛みが拙者を襲う。

死なぬ身体を持っているとはいえ、感覚はある。苦しい。

だが、これしきで根を上げては、ヤツに笑われる。

拙者は必死で無心たろうとした……。

「今よ!」

少女の声が聞こえると同時に、拙者は立ち上がる。

己の身体に何か熱いものが流れ込んでくるのを感じる。

拙者を包んでいた炎は一瞬のうちに消えていた。

しかし……苦しい。

先ほどの外商的な苦しみとは違う。

身体中が内側から張り裂けそうな、そんな感覚だ。

先ほどのような熱さと痛みには耐えられても、この未知の痛みには到底、耐えられそうになかった。

苦しくて、苦しくて、胸を掻きむしる。

「貴方には、その力を身体に止めておくことは出来ない。

イメージしてみて。その力が貴方の持つ剣に焔として点る姿を」

拙者は苦しみに耐えながら、剣を抜く。

先ほどの少女が剣に炎を点したように……。

身体中を何かが蛇のようにうねるような気持ちの悪い感覚。

そのうねりは胸から腕へ、そして腕から――

拙者の刀に炎が点った。

もう先ほどのうねりは感じない。

それどころか、力が満ちあふれているような、そんな感じさえ覚える。

「これがクラウソラス……!?」

赤々と燃え上がる刀を見ながら、拙者は言いようのない興奮を感じていた。
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