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False Island 49日目 天埜邪鬼(550)と華煉(1516)の邂逅
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俺は力を手に入れた。

島を訪れるまでとは全く違う、異質で不思議な力だ。

新たな力が全身にみなぎり、長い年月で錆び付いて動かなくなった身体が、驚くほどうずく。

それと共に絶望し、諦観しきった魂が再び燃えあがるのを感じる。

俺は両の手を見つめる。

掌には熱い血潮が流れている。

「……あの頃、俺に迷いなどなかった」

自らの目的のために、がむしゃらになれた。

なのに、この数百年、俺は何をしていたのだろうか……。

自らの境遇に悲観し、甘えていただけだった。

俺は気づかないうちに、自らの心の闇に取り憑かれたのだろう。

俺を残し、逝った者は皆、俺に変わらないで欲しいと願ったにも関わらず……。

俺の望み……それは自らを入滅せしめること。

それを彼らがどう思うかはわからない。

ただ、生きるにしろ、死ぬにしろ、俺らしく突き進むのみ。

結論はその時までに決めればよいし、そうでなければならない。

今の俺は1人で行動しているわけではないのだから……。



宿に戻り身体を休めていた俺は、一番鶏も鳴かぬうちに起き出す。

恩人である少女との約束通り、幾ばくかの礼品と感謝の手紙を送るためだ……

だが、生来の無学と筆無精が祟ったのか、良い文面にはならない。

そうこうしているうちに一番鶏が鳴いた。

すぐに辺りが明るくなるだろう。

業を煮やした俺は、苦肉の策として一編の詩を送ることにした。



  我實幽居士
  無復東西縁
  物新人惟舊
  弱亳多所宣
  情通萬里外
  形跡滯江山
  君其愛體素
  來會在何年



俺は手紙と礼品を持ち、外へ出る。

まだ日は昇っていない。

明るいうちは賑やかな市場も、ひっそりと静まっている。

少女の泊まっている小屋を確認すると、扉の前に手紙を置き、その上に礼品を重ねる。

本来は逆でなければ失礼に当たるかも知れないが、風で飛ばされては元も子もない。



家路につく時、ふと考える。

異国の詩人が晩年に詠んだこの詩の意味をわかってもらえるだろうか、と。

しばらく考えた後、俺は大きく首を振った。

わかってもらえずともよいのだ。

俺が感謝する心を持ちあわせていれば、それでいいのだから……。


「……今度の道程は遂に3階か。楽しみだな」

朝焼けで真っ赤に染まる空に、決意を新たにするのだった。
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